
相続不動産の売却では、買主を探す前に相続人や遺産分割、登記の状況を整理することが大切です。売却方針が固まったら、査定価格を確認し、売却時期や資金計画を具体化していきます。
この記事では、相続した不動産を売却する流れや、相続不動産に関係する税金・特例、注意点について解説します。さらに、実際に相続不動産を売却した方を対象に、売却時に困ったことや大変だったことについてアンケート調査を行いました。相続した不動産の売却を考えている方の参考になれば幸いです。
■監修者プロフィール
大川大輔 税理士・FP2級
早稲田大学商学部を卒業後、大手通信会社・外資系医療機器販売会社を経て、税理士業界へ。
税理士資格を取得後、2社の税理士法人に勤務。現在は、税理士事務所にて法人及び個人に関する税務業務、法人監査、相続に関する税務相談などを行っている。
- 相続した不動産を売却する流れ
- 相続不動産の売却でかかる税金
- 相続不動産の売却で使える特例
- 相続不動産を売却した人が困ったこと【独自アンケート】
- 相続不動産を売却するときの注意点
- 相続不動産の売却に関するよくある質問
- まとめ|相続した不動産の状況を整理して売却を進めよう
相続した不動産を売却する流れ

相続した不動産は、相続関係を整理したうえで通常の不動産売却へ進みます。
各ステップを見ていきましょう。
STEP1.相続人と遺産を確認する
まず、誰が相続人なのか、不動産が相続財産に含まれているかを整理します。遺言書等の有無、不動産の所在や登記上の権利関係も確認しましょう。
複数の相続人がいる場合は、誰が不動産に関する手続きを進めるのかも話し合っておくと、その後の手続きを進めやすくなります。
STEP2.遺産分割を行う
相続人が複数いる場合は「不動産を誰が取得するのか」「共有で取得するのか」「売却して現金を分けるのか」などの方針について相続人間で話し合います。
誰が不動産を取得するかは、その後の相続登記や売主となる人に関係します。売却だけを先行させず、遺産分割の内容を確認してから手続きを進めることが重要です。
STEP3.相続登記を行う
相続した不動産を売却する前に登記状況を確認し、相続登記を行います。
2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、不動産を相続したことを知った日から原則3年以内に申請しなければなりません。また、遺産分割によって不動産を取得した場合も、遺産分割が成立した日から原則3年以内に、その内容を反映した登記を行う必要があります。
なお、相続登記を期限内に行えない場合などに利用できる「相続人申告登記」は、相続登記の申請義務を果たすための制度です。相続人申告登記だけでは、そのまま売却できないので、遺産分割などの結果にもとづいて相続登記を行いましょう。
参考URL:法務省|相続登記の申請義務化に関するQ&A
STEP4.売却に必要な書類を準備する
相続した不動産の売却を進める際に、早めに探しておきたい資料は次のとおりです。
・相続関係や登記内容を確認する資料
・不動産の所在地・面積・権利関係に関する資料
・固定資産に関する情報に関する資料
・被相続人の購入時の売買契約書や領収書など
・建物・マンションの管理状況等に関する資料
特に、被相続人が購入したときの売買契約書や領収書は、売却後の譲渡所得を計算する際に、取得費を把握する重要な資料になります。
また、必要となる書類は登記・査定・売買契約・税務手続きなど、場面によって異なります。売却直前になって探すと時間がかかることもあるため、相続手続きと並行して、手元にある資料を早めに整理しておくと安心です。
STEP5.税制上の期限を確認する
相続不動産の売却では、条件に該当すれば税制上の特例を利用できる可能性があります。確認したいのは、次の4点です。
・期限の起算日
・譲渡の期限
・対象となる人・不動産
・そのほかの適用条件
税制上の特例については「相続不動産の売却で使える特例」にて詳しく解説します。
STEP6.不動産の査定を依頼する
相続関係と売却方針が整理できたら、不動産の査定を依頼します。なお、査定価格は実際の成約価格を保証するものではありません。価格について、用語の違いを理解しておきましょう。
・査定価格:不動産会社などが物件条件や取引状況を踏まえて算出する参考価格
・売出価格:売主が市場へ提示する価格
・成約価格:売主と買主が合意し、実際に売買契約が成立した価格
相続した不動産の査定価格を把握しておくと、売却によってどの程度の資金を得られそうかをイメージでき、今後の売却計画も立てやすくなります。
STEP7.媒介契約を結び売却活動を始める
不動産会社へ仲介を依頼する場合は媒介契約を結び、買主を探す売却活動を始めます。媒介契約は、不動産の売買について不動産会社へ仲介を依頼するための契約です。
参考URL:国土交通省|消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ
STEP8.売買契約を結ぶ
購入希望者と価格や引き渡し時期などの条件がまとまったら、売買契約を締結します。契約内容を確認し、合意した条件を書面で明確にします。
共有状態など権利関係に確認事項が残っている場合は、契約前に整理しておきましょう。
STEP9.決済・引き渡しを行う
売買契約に沿って、売買代金の決済や所有権移転の手続き、物件の引き渡しなどを行います。
必要書類や当日の進め方は取引条件によって異なるため、不動産会社や登記を担当する専門家と事前に確認しましょう。
STEP10.確定申告の要否を確認する
売却後は、譲渡所得が生じているか、特例を利用するかなどを確認し、確定申告が必要か判断します。
土地や建物を売却して譲渡所得がある場合は、原則として確定申告が必要です。特例の適用を受けるために、申告が求められる場合もあります。判断が難しい場合は税理士へ確認してください。
参考URL:国税庁|不動産等を売却した方へ|令和7年分 確定申告特集
相続不動産の売却でかかる税金

ここでは、売却やその前提となる登記に関係する主な税金を紹介します。
・譲渡所得税・住民税
・印紙税
・登録免許税
ひとつずつ見ていきます。
譲渡所得税・住民税
相続した土地や建物を売却して利益が出た場合は、譲渡所得に対して所得税と住民税がかかります。売却代金の全額に課税されるわけではなく、基本的には「売却代金-(取得費+譲渡費用)」で譲渡所得を算出します。一定の条件を満たしている場合、そこから特別控除額を差し引いて課税譲渡所得を計算します。
税率は所有期間などによって変動し、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える「長期譲渡所得」なら所得税15%・住民税5%、5年以下の「短期譲渡所得」なら所得税30%・住民税9%です。また、それぞれの所得税額に対する復興特別所得税2.1%がかかります。
相続した不動産では、取得費や所有期間を原則として被相続人から引き継ぎます。そのため、所有期間は相続した日から数えるのではなく、被相続人が取得した日をもとに判定します。
参考URL:国税庁|No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
参考URL:国税庁|No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)
参考URL:国税庁|No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
印紙税
不動産の売買契約書は、契約内容や契約金額などによって印紙税の対象になります。2026年9月10日時点では、一定の不動産譲渡契約書に軽減措置が設けられています。
印紙税額は契約金額などによって異なるため、契約時点の国税庁情報を確認してください。
参考URL:国税庁|No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置
登録免許税
登録免許税は、不動産の所有権移転などの登記を受ける際に関係する税金です。相続不動産では、売却に先立つ相続登記で関係する場合があります。
課税の仕組みは登記の種類によって異なり、一定の条件を満たせば免税措置も活用できます。
参考URL:国税庁|No.7190 登録免許税のあらまし
参考URL:法務局|相続登記の登録免許税の免税措置について
相続不動産の売却で使える特例

相続不動産の売却で使える可能性がある特例を2つ紹介します。
・取得費加算の特例
・空き家の3,000万円特別控除
以下で解説していきます。
取得費加算の特例
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」は、相続または遺贈で取得した財産を一定期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できる制度です。取得費とは、土地や建物を売却したとき、売却価格(譲渡価額)から差し引ける「その資産を手に入れるためにかかった費用」のことです。
たとえば、次のようなものが該当します。
・土地や建物の購入代金や建築代金
・購入時の仲介手数料
・登録免許税や不動産取得税、印紙税などの税金
取得後の設備費や改良費(リフォーム費用など)に特例を適用することで、納めた相続税の一部を取得費に加算できるというものです。相続等で財産を取得した人に、相続税が課税されていることなどが主な要件です。譲渡期限は、相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までとされています。
参考URL:国税庁|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
空き家の3,000万円特別控除
空き家の3,000万円特別控除の正式名称は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。一定の被相続人居住用家屋またはその敷地等を売却し、要件を満たす場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。
相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなどが要件として挙げられています(2026年9月1日時点)。
空き家の3,000万円特別控除について知りたい方は、こちらの記事も要チェックです!
3,000万円特別控除とは?適用要件・計算方法・確定申告をわかりやすく解説
参考URL:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
特例ごとの適用期限と併用できるかを確認する
特例は適用期限や条件、併用の可否がそれぞれ異なる点に注意しましょう。
たとえば、取得費加算の特例と空き家の3,000万円特別控除では、適用期限の数え方が異なります。取得費加算の特例は「相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」、空き家の3,000万円特別控除は「相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」が主な期限です。
また、同じ資産について「取得費加算の特例」と「空き家の3,000万円特別控除」を併用することはできません。どちらを利用するかによって税額が変わるため、譲渡所得や相続税額などをもとに比較して選ぶことが大切です。
相続不動産を売却した人が困ったこと【独自アンケート】

今回は、過去5年以内に相続した不動産を売却し、自身が手続きや判断に関わった方を対象にアンケートを実施しました。
「困ったこと」「最も大変だったこと」「相続時に知っておきたかったこと」「予定より時間がかかった工程」の4つに分けて紹介します。
※調査対象:過去5年以内に相続不動産を売却し、自身が手続き・判断に関与した方
※本記事のアンケートは、ニフティ不動産お悩みコラム編集部にて、2026年9月にインターネットにて実施したものを元に集計結果を掲載しております
※相続不動産を売却した経験者の傾向を見る参考情報としてご覧ください
相続不動産の売却で困ったことランキング

「困ったこと・苦労したこと」を複数回答で尋ねたところ、「相続登記(名義変更)の手続き」が50%で最も多い結果となりました。
次いで、「相続人・権利関係の整理」「必要書類の収集」「不動産の片付け・家財や残置物の処分」がそれぞれ40%、「遺産分割の話し合い」が35%でした。
売却価格や買主探しだけでなく、登記・権利関係・書類・片付けなど、実際に売り出す前の準備で負担を感じた人が多いことがわかります。
最も大変だった手続き・判断

困ったことの中から「最も大変だったこと」を1つ選んでもらったところ、「何から始めればよいかわからなかった」が20%で最多でした。
「不動産の片付け・残置物処分」が15%、「売却にかかる税金」「必要書類の収集」「遺産分割の話し合い」がそれぞれ10%と続いています。
相続した時点で知っておきたかったこと

「相続した時点で知っておきたかったこと」では、「相続登記(名義変更)の手続き方法や期限」が45%で最も多くなりました。
「必要な書類と探しておくべき資料」「売却にかかる手数料や費用」がそれぞれ40%、「売却完了までの全体の流れ・スケジュール」「不動産価格の目安・相場の調べ方」がそれぞれ35%と続きます。
相続した直後から売却を決める必要はありませんが、登記の期限や必要書類、費用、売却までの流れを早めに把握しておくと、その後の判断を進めやすくなると考えられます。
予定より時間がかかった工程

相続から売却完了までに「予定より時間がかかった工程」を尋ねたところ、「家財・残置物の整理や片付け」が50%で最多でした。
次いで、「相続登記(名義変更)の手続き」が35%、「遺産分割協議」が30%、「相続人の確認・特定」「必要書類の収集」がそれぞれ25%となっています。
売却時期に希望があるなら、登記や片付け、書類収集を早めに進めておくことが重要です。
相続不動産を売却するときの注意点

相続不動産を売却するときの注意点は、以下のとおりです。
・共有名義では売却方針を相続人間で整理する
・被相続人の購入時の資料を探しておく
・空き家や土地を売却まで放置しない
・「3年以内に売れば得」と一律に判断しない
・税金や権利関係が複雑な場合は専門家へ相談する
それぞれ説明していきます。
共有名義では売却方針を相続人間で整理する
相続した不動産を複数人で共有する場合は、売却するかどうかだけでなく、売却時期や希望価格などについて共有者間で方針をそろえておくことが重要です。
たとえば、次のような内容を事前に話し合っておくと、売却を進めやすくなります。
・売却するか、保有を続けるか
・いつまでに売却したいか
・どの程度の価格なら売却に合意するか
・不動産会社との連絡を誰が担当するか
・売却代金をどのように分けるか
共有不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の合意が必須です。
被相続人の購入時の資料を探しておく
相続した不動産を売却するときは、被相続人がその不動産を取得したときの売買契約書や領収書などを探しておきましょう。購入代金や購入時の費用は、売却後の譲渡所得を計算する際の取得費に関係します。
取得費が分からない場合は、売却代金の5%を概算取得費として計算する方法があります。しかし、実際の取得費がそれより高ければ、資料をもとに計算したほうが課税される譲渡所得を抑えられる可能性があります。
参考URL:国税庁|No.3258 取得費が分からないとき
空き家や土地を売却まで放置しない
相続した家や土地を売却まで放置すると、建物の劣化や敷地の荒廃が進み、売却時の印象や価格に影響する可能性が高まります。また、雑草の繁茂やごみの不法投棄などによって、近隣トラブルにつながるケースも見られます。
空き家であれば、定期的な換気や通水、雨漏り・設備の故障などの確認が必要です。土地についても、雑草の繁茂やごみの不法投棄、境界付近の状態などを確認しておきましょう。遠方に住んでいて自分で管理するのが難しい場合は、親族や管理サービス、不動産会社などへ管理を依頼する方法も考えられます。
「特例の適用期限内に売れば得」と一律に判断しない
取得費加算の特例、空き家の特別控除では「約3年」が期限となります。しかし、3年を過ぎたら不動産を売却できなくなるわけではなく、3年以内なら必ず税負担が軽くなるわけでもありません。
物件の状況、相続人間の方針、利用できる特例を確認したうえで売却時期を検討することがポイントです。
税金や権利関係が複雑な場合は専門家へ相談する
相続不動産の売却では、売却そのものだけでなく、登記や税金、遺産分割など複数の手続きが関係します。たとえば、「いくらで売れるか」は不動産会社、「特例を使うと税額がいくらになるか」は税理士というように、相談先によって対応できる範囲が異なります。
相談内容に応じて、適切な専門家を選びましょう。
・売却価格の査定や販売方法:不動産会社
・譲渡所得や相続税、税制上の特例:税理士
・相続登記や所有権移転登記:司法書士
・遺産分割や共有者間のトラブル:弁護士
何に困っているのかを整理し、それぞれの専門分野に合わせて相談すると、売却手続きを進めやすいです。
相続不動産の売却に関するよくある質問

最後に、相続不動産の売却に関するよくある質問を紹介します。
相続登記が終わる前に不動産を売却できる?
相続登記が完了する前でも、不動産会社への査定依頼や売却相談まで進められる場合があります。ただし、買主へ所有権を移すには、先に相続登記を行い、不動産の名義を相続人へ変更しなければいけません。
そのため、査定や買主探しと並行して相続登記を進め、買主との売買契約を結ぶまでに登記を完了できるようスケジュールを組んでおくことが大切です。
相続した不動産は3年以内に売却したほうがいい?
相続した不動産は、一律に「3年以内に売却したほうがよい」とは判断できません。ただし、取得費加算の特例や空き家の3,000万円特別控除など、相続からおおむね3年を目安とする期限が設けられている特例があります。
特例の期限や相続人間の方針、物件の状態、希望する売却時期などを踏まえて売却時期を検討してみてください。
取得費がわからない場合はどうする?
取得費を把握するためには、被相続人の売買契約書や領収書などを探します。資料が手元になく、取得費がわからない場合には、売却金額の5%相当額を取得費とする方法があります。
相続した不動産を売却したら確定申告は必要?
譲渡所得があるならば、原則として確定申告が必要です。また、特例の適用を受けるために申告が必要な場合もあります。
遠方にある相続不動産でも売却できる?
遠方にある相続不動産でも売却できます。その場合は、現地確認や家財整理、書類準備、契約・引き渡し時の対応を事前に理解することが大切です。物件所在地に対応する不動産会社へ、遠方から進める場合の対応範囲も確認しておくとスムーズです。
まとめ|相続した不動産の状況を整理して売却を進めよう

相続した不動産を売却するときは、相続人・遺産分割・相続登記を整理し、税金や特例の期限を確認してから具体的な売却計画へ進むことが基本です。売却手続きには各種資料が必要となるため、早めに準備を進めましょう。
売却する方針が固まったら、査定価格を確認すると売却時期や資金計画を考える材料になります。査定価格は成約価格を保証するものではないため、参考価格として活用してください。
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