
なぜ、不動産売却時に減価償却が関わってくるのか?

「取得価格+売却費用<売却価格」という状態で不動産を売却(譲渡)すると、その差額が利益となります。個人が不動産を売却した場合、税制上においてその利益は譲渡所得とみなされ、譲渡所得税と呼ばれる税金が課されます(法人の場合は法人税を課税)。
この譲渡所得税が発生した場合には、翌年に確定申告を行って納税しなければなりません。ただ、正式な譲渡所得は「売却価格−取得価格−取得や売却にかかった費用−特別控除」という計算式で算出されるため、費用(コスト)を洗い出す必要があります。
この費用に含まれるのが建物部分の減価償却費です。「減価」とは価値を割り引くことで、収益に貢献した資産の取得額を費用化することを、会計の世界では「償却」と表現します。
市況(時価)は変化するとはいえ、歳月を経ても土地の実質的な価値が劣化することはありません。これに対し、経年劣化という表現があるように、建物の資産価値は次第に低下していきます。
そこで、会計上では経年に伴う資産価値の減少分を費用とみなして差し引く必要があり、その作業のことを減価償却と呼んでいます。この資産価値の減少分こそ、減価償却費と呼ばれるものなのです。
減価償却費の計算は、「定額法」と「定率法」という2種類の手法のいずれを用いて行います。「定額法」とは、その建物が耐用年数に達するまで、均等額(定額)の減価償却費を毎年計上していくというもので、「1年分の減価償却費=取得価格×所定の償却率」という計算式で算出します。
上記の耐用年数とは、あくまで会計処理を行うために定められているもので、実際の耐久性(使用可能年数)ではありません。建物や機械、車両、工具など、資産の種類ごとに「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によって耐用年数が定められています。
一方、「1年分の減価償却費=未償却残高(取得価格−減価償却累計額)×所定の償却率」という計算式を用いるのが「定率法」です。年々、費用として計上される減価償却費は減少していくことになります。
減価償却費の計算は、売却不動産の用途によって変わってくる
「定額法」によって減価償却費を計算する際、対象となる不動産が事業用と非事業用のどちらに該当するのかによって、計算式の詳細は異なってきます。事業用の具体例は賃貸マンションやアパート、事務所、店舗などで、非事業用は自宅や別荘です。
事業用不動産は、不動産を取得した時期によって計算式が異なります。2007年3月31日以前に取得していた場合は、「取得価格×0.9×旧定額法で定めた償却率×事業に用いられた月数÷12」という計算式で算出します。
2007年4月1日以降に取得していた場合、その計算方法は「取得価格×新定額法で定めた償却率×事業に用いられた月数÷12」です。どちらの式からも想像できるように、事業用の減価償却費は月単位で算出するのが特徴です。
非事業用の減価償却費は「取得価格×0.9×所定の償却率×所有年数」という計算式を用い、月単位の事業用とは異なり、年単位で算出するようになっています。6カ月以上は1年に切り上げて計算し、6カ月未満は切り捨てて計算します。
減価償却費を算出したら、建物の取得や売却にかかった他の費用と合算します。そのうえで、この記事の序盤で触れた「売却価格−取得価格−取得や売却にかかった費用−特別控除」を用い、課税譲渡所得(課税対象となる譲渡所得)を導き出します。
この課税譲渡所得金額に、建物の所有期間に応じた税率を乗じると、譲渡所得税が算出されます。
不動産の所有期間で減価償却費と譲渡所得税はどのくらい変わる?
先に述べたように、譲渡所得税の税率は建物の所有期間によって異なってきます。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下だった場合は「短期譲渡所得」とみなされ、住民税や復興特別所得税との合算で39.63%の税率が適用されます。
5年を超えていた場合は「長期譲渡所得」として、住民税や復興特別所得税との合算で20.315%の税率となります。さらに、所有期間が10年を超えて一定の条件を満たす場合には、軽減税率の14.21%が適用されます。
所有期間によって実際に税額がどれだけ違ってくるのかについて、具体例を用いて試算してみましょう。下記の条件で、個人が非事業用の不動産を売却したと仮定します。
建物の構造:戸建て住宅(木造)
購入価格:7,000万円(土地:4,000万円・建物:3,000万円)
売却価格:8,000万円
譲渡費用:200万円
所有期間が5年だったケースから計算してみましょう。
■減価償却費=建物の取得価格(3,000万円)×0.9×償却率(0.031)×所有期間(5年)=418.5万円
■取得費=土地の取得価格(4,000万円)+建物の取得価格(3,000万円)−減価償却費(418.5万円)=6,581.5万円
■課税譲渡所得=売却価格(8,000万円)−取得費(6,581.5万円)−譲渡費用(200万円)=1,218.5万円」
∴譲渡所得税=課税譲渡所得(1,218.5万円)×譲渡所得税率(39.63%)=482万.8915円
続いて、所有期間が7年だったケースです。
■減価償却費=建物の取得価格(3,000万円)×0.9×償却率(0.031)×所有期間(7年)=585.9万円
■取得費=土地の取得価格(4,000万円)+建物の取得価格(3,000万円)−減価償却費(585.9万円)=6,414.1万円
■課税譲渡所得=売却価格(8,000万円)−取得費(6,414.1万円)−譲渡費用(200万円)=1,385.9万円
∴譲渡所得税=課税譲渡所得(1,385.9万円)×譲渡所得税率(20.315%)=281万.5455円
最後に、所有期間が11年だったケースです。
減価償却費=建物の取得価格(3,000万円)×0.9×償却率(0.031)×所有期間(11年)=920.7万円
■取得費=土地の取得価格(4,000万円)+建物の取得価格(3,000万円)−減価償却費(920.7万円)=6,079.3万円
■課税譲渡所得=売却価格(8,000万円)−取得費(6,079.3万円)−譲渡費用(200万円)=1,720.7万円
このように課税譲渡所得は所有期間5年、7年のケースよりも多くなっていますが、10年超えて一定の条件を満たしていれば軽減税率(14.21%)が適用され、譲渡所得税は以下の結果となります。
∴譲渡所得税=課税譲渡所得(1,720.7万円)×譲渡所得税率(14.21%)=244万.5114円
つまり、3つのシミュレーションの中で税負担が最も軽くなるのです。
なお、居住用不動産で一定の要件を満たす場合には、譲渡所得税に関していくつかの特例が設けられています。たとえば、所有期間が10年超(売却年の1月1日時点)の居住用不動産を売却し、併せて一定の要件を満たしていると、「長期譲渡所得」の税率よりも低い税率が適用されます。
ただし、適用されるのは6,000万円までの部分で、その税率は10%です。6,000万円を超える部分については、「長期譲渡所得」と同じ税率になります。
一方、居住用不動産を売却した際に一定の要件を満たしていると、所有期間に関係なく譲渡所得から最大3,000万円まで控除できます。注意したいのは、敷地のみの場合は適用されないことです。
まとめ
個人が不動産を売却して利益を得ると税制上では譲渡所得とみなされ、譲渡所得税と呼ばれる税金が課されます。その税額を計算する際には、建物部分の減価償却費を把握する必要があります。
減価償却とは、経年に伴う建物の資産価値の減少分(減価償却費)を費用とみなして差し引くことです。減価償却意外にも、不動産の売却では様々な専門用語が関わってきます。
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