放置している空き家がなぜ問題になるのか

総務省が2013年に実施した「住宅・土地統計調査」によれば、空き家の数はこの20年間でほぼ2倍に増加し、住宅の総数に占める空き家の率を示す「空き家率」も過去最高の13.5%となりました。

この調査では、空き家を「賃貸用」「売却用」「二次的住宅(別荘)」「その他」に分類していますが、とくに問題視されているのが「その他」に該当する空き家です。なぜなら、この「その他」には、長い間にわたって放置された老朽戸建てやアパートなど、倒壊の恐れがある危険な状態の空き家が含まれているからです。

空き家の放置が引き起こす危険は倒壊だけではありません。不審者が立ち入ることで防犯上のリスクが生じたり、不審者が火を使えば火事の危険も高まります。立ち入りがなかったとしても、空き家への放火は多いものですし、廃棄物の不法投棄で衛生状態や景観が悪化することも大いにありえます。

実際に、2016年を振り返っても、空き家や空き店舗の火事が相次ぎ、空き家が火元とみられる火事で隣接する何軒もの家が焼けてしまった事例がありました。火事以外でも、強い風で屋根が剥がれて飛ぶ、老朽化した塀が崩れて隣家や路上に落ちるといった事故もあり、このことからも空き家は誰もが気にかけなければならない存在であるといえます。

そうした空き家が都市部を中心に増加する一方で、かつて典型的な郊外の住宅地であったような地域でも、日中から雨戸を閉めたままの空き家が目立つようになってきました。住みはじめたころは若い夫婦と子どもの家庭でも、年を重ねると子どもは独立しますし、夫婦も利便性の高い場所へ住み替えたり老人ホームに入居するなどします。その結果として、それまで住んでいた家を離れる家庭が増えているのです。

そうした住宅地のなかには、若い人に住んでもらって活気を取り戻そうとするところもあります。家も広く、公園なども備えた住宅地は住環境としては魅力的です。しかし、若い家族が簡単に購入できる価格ではなく、移住もなかなかすすまないのが現状です。地域によっては建築に関する厳しい決まりがあり、土地の分割や集合住宅を建設することが難しいケースもあります。

マンションの空き家も深刻です。修繕や立て替えにはマンション各戸の所有者の合意が必要になりますが、多くの所有者の合意を得るのは容易ではありませんし、所有する物件を賃貸に出す家があったりして状況もさまざまです。そうして適切なメンテナンスをおこなうことができないまま老朽化がすすんでしまうと、人が住むことのできない建物になってしまい、放置するしかなくなってしまうというわけです。

使わない家を放置している人は損をする?

「そうはいっても住む人もいないし、とりあえずしばらく放っておくしかない」と考えている方もいらっしゃることでしょう。とはいえ、そのままにしておくことはおすすめできません。なぜなら、実は損をしているかもしれないからです。では、空き家の放置によって、どのような“損”があるのでしょうか。

固定資産税が最大6倍に!?

「固定資産税」というのは、土地や建物などの固定資産を持っている人にかかる税金です。所有する土地や建物それぞれの評価額(「課税標準額」と呼ばれます)を算出し、それに税率をかけた金額が固定資産税となります。

土地のなかでも、建物のある住宅用地については、この課税標準額が3分の1か6分の1になるという減免規定があるのです。しかし、この減免はあくまでも住宅用地が受けることができる特例ですので、土地に建てられている住宅を取り壊したり、住居を店舗などにして「住宅用地」でなくなった場合は、特例を受けることができなくなります。

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裏を返せば、住宅があれば、誰も住んでいない空き家であっても特例措置の対象となるわけです。空き家を取り壊す場合は建物を壊して片付けるのに費用がかかり、取り壊し後の固定資産税も増えることになるとなれば、その負担は大きいものがあります。そうした要素も空き家が増える一因となりました。

そこで2015年5月から施行されたのが「空き家対策特別措置法」です。下記の条件に合致する空き家を「特定空家等」として扱い、自治体が対策をとることができるようにするというものです。

<特定空家等とは?>
・倒壊などのように、著しく保安上の危険となる恐れがある状態の空き家
・衛生上の観点で、著しく有害となる状態の空き家
・適切な管理がおこなわれておらず、景観を損なっている状態の空き家
・周辺の生活環境を保全するために、そのまま放置することが不適切とされる状態の空き家

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特定空家等と扱われる空き家については、自治体などの立ち入り調査が可能になるほか、家の修繕や植物の伐採などを助言、勧告、命令することができるようになりました。

同時に、この措置をとると勧告されたり実際に行政処分を受けた特定空家等については、前述した固定資産税の特例措置の対象から除外されることになりました。つまり、「特定空家等」とみなされた場合、固定資産税がいままでの3倍か6倍になってしまうわけです。

強制執行で解体されることも!?

先に説明した空き家対策特別措置法によって、自治体が空き家の立ち入り調査をおこなったり、撤去することが可能になりました。2016年7月には群馬県前橋市が空き家対策特別措置法に基づく行政代執行に踏み切り、所有者不明の空き家の解体を実施しました。同9月には新潟県妙高市で、廃業した旅館の建物を撤去しました。いずれも倒壊などで通行人や観光客に危険が及ぶ恐れがあったためです。

同じく8月には宮城県仙台市で空き家の対策を話し合う会議がおこなわれました。ここでは、市民から苦情などがあった空き家800件余を調査し、所有者が明らかになった約280件に助言や指導をおこない、改善を促したとの報告がありました。このうち特定空家等は22件でしたが、所有者が解体費用を捻出することができないといったケースが多く、改善は4件にとどまったとのことです。

専門家からのアドバイス

空き家の問題は売るに売れない、貸すに貸せない空き家をどうするか?に尽きます。
取り壊して更地にすると固定資産税等が6倍になるのでは、空き家のままが良いという判断の方が多いのではないでしょうか。そこまでいくと後は無料でももらってくれる人を探すのみとなり、空き家を解消するのは容易ではありません。
売ることや、貸すことができる状態なら、そうならないうちに手続きは済ませておきたいものです。

放置している家の売却を考えるならいまがお得!

「空き家対策特別措置法」の例にあるように、、空き家の放置は損をしてしまう可能性があります。そればかりではなく、万一火事や倒壊などで人にけがをさせてしまうことがあれば、その責任はとても重いものです。それならば、積極的に売却を考えたいと思う人も少なくないでしょう。そして、いまはまさに、売却を考えるのにうってつけの時期なのです。

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2016年度の税制改正では、「空き家の発生を抑制するための特例措置」が設けられました。これは、相続で取得した住宅や、住宅を取り壊したあとの土地を譲渡した場合、その譲渡所得から3000万円を控除することができるという制度です。「使える空き家は利用を促し、使えない空き家は取り壊しをすすめる」ことを考えの軸としたもので、これによって空き家の発生をおさえるのが目的です。

対象となる住居や時期には条件がありますし、あくまで特例措置ですので永久に続く優遇とは限りません。詳しくは自治体などで相談してみるなどして、早めに売却を検討することをおすすめします。

専門家からのアドバイス

空き家となった場合、どこに相談をすればいいのか?この件についても見解を書かせていただきます。
まずは地元にある不動産会社が1番最初。大手、中小を問いません。空き家に資産性があるなら売却、賃貸、活用等様々な提案をしてくれますので、そこで皆さんが気に入った方法に耳を傾けましょう。彼らにとってもビジネスチャンスですから一生懸命に提案してくれるはずです。
なお、不動産会社によって対応は様々ですから、1社の対応が今ひとつだからと言って諦めず、3社前後は回って話をして下さい。ただ、その3社とも今ひとつの対応なら売却等は難しいかもしれません。

そうすると次の段階として、地元の自治体に問い合わせをしてみます。昨今では空き家問題解消のための様々なプロジェクトを行っているところもあります。うまく繋がるかもしれません。

それでも駄目なら一般社団法人移住交流推進機構(略称:JOIN)が行っている空き家バンクなど、自治体関連の団体が行っている事業に登録をしてみましょう。なおJOINのホームページには空き家を改修する際に支援をする補助金も掲載されています。空き家がある方は一度のぞいてみても良いかもしれません。
どちらにしろ手をこまねいているよりかは積極的に動いた方が実を結ぶはずです。

おわりに

まずはどこかに相談してみることです。不動産会社などの査定から、具体的に数字などをみていくことで、売却のイメージもふくらんでいくかもしれません。「そのうちそのうち」と思っているうちに時期を逃さないよう、売却の検討を始めていきましょう。

監修:

畑中 学(はたなか おさむ)

Profile
不動産コンサルタント・武蔵野不動産相談室株式会社 代表 1974年東京都生まれ。設計事務所にて一戸建てや公団分譲地を手掛けた後、不動産会社へ移り最年少で店長になる等、7年間にわたり不動産の販売・企画・仲介を責任者として携わる。2008年に創業。家に関する相談を約800組受け、お金の面から多くの方に満足のいく家づくりと家の買い方をサポートしている。 「不動産の基本を学ぶ(かんき出版)」「不動産の落とし穴にハマるな(同)」「マンション・戸建 中古の選び方(日経ビジネス)」「お金持ち入門(実業之日本社 不動産編)」など著書は多数。